一橋大学大学院経営管理研究科(HUB)・経営管理専攻MBAプログラムを対象とする、三枝匡経営者育成基金の寄附講義「ビジネス・デベロップメント」が、2021年4月に開講しました。2021年度に予定している当基金の寄附講義2つのうちの1つです。

当講座「ビジネス・デベロップメント」は、事業開発を体系的に学び、実践的なノウハウを身に付けることを目的にしています。かねてよりHUBで教鞭を執ってきた秦充洋・HUB客員教授(BDスプリントパートナーズ代表取締役)が指導教員を務め、春夏学期(4月〜7月)の土曜日6日間を使い、全13コマで展開されます。対象は2年生で定員は50名、受講者全員が社会人学生です。

非連続な事業アイデアをいかに生み出すか

初日(Day 1)である4月24日(土)には、「非連続な事業アイデアをいかに生み出すか」をテーマに、3コマの授業が行われました。新型コロナウイルス感染症対策で、翌日から東京都に3度目の緊急事態宣言が発出されるという状況下、千代田キャンパス内の大講義室で学生同士の席の間隔を広くとり、パーティーションも使用しての講義となりました。

秦教授は1991年にボストン・コンサルティング(BCG)日本法人に入社、新規事業プロジェクトや事業再生などに携わった後、96年7月には、CareNeTVの運営など医療従事者向けの情報提供や医療DX事業を手がける株式会社ケアネットを共同創業しました(同社は2007年4月に東証マザーズに上場)。近年は、大企業の新規事業開発のコンサルティングや起業家育成に力を注いでいます。

冒頭で、秦教授はP・F・ドラッカーの「企業の目的は顧客の創造であり、それにはイノベーションとマーケティングだけが成果をもたらす」という言葉を引用しつつ、講座の基本思想が「イノベーション」と「マーケティング」の重要性であることを強調。目標として、①新事業を考えるときの枠組みやステップを学ぶ、②チームで検討する際の共通言語化を図る、③実践を通じて使えるレベルにする--の3点を示し、「本当に事業を立ち上げるつもりで取り組んでほしい」と受講生への期待を述べました。

1コマ目の講義では、まず、事業開発責任者・担当者の感じる課題を「アイデア出しに関わる課題」「ビジネスモデル構築に関わる課題」「社内・社外をどう巻き込むかに関する課題」の3つに分類。アイデア出しについては、「これまで研究開発しかやってこなかったから、そもそもアイデア出しのやり方がわからない」「せっかく出しても、すぐに潰されてしまう」、「巻き込み」に関しては、「外の協力を得るほうが、社内の理解を得るよりもよほど簡単」等々、事業開発で実務家がよくぶつかる壁について、テンポよく、ビビッドに解説していきます。

講師

グループワークも織り交ぜ、実践へと結びつける

当講座の魅力は、何といっても教授自身の豊富な新規事業立ち上げやコンサルティング経験・知見に基づく実例紹介と、学生との活発かつ真剣勝負のディスカッションです。

例えば、「業界の常識」が落とし穴になったケースとして、2010年頃のスマホゲームの勃興期に、大手ゲーム会社幹部が「あんなのはゲームじゃない」と見くびり、新興ベンチャーに後れを取った実例などを紹介。さらに、インターネット、モバイル、AIなど、10年に一度のペースで起こる大きな変化を例に、「新技術普及のS字カーブ」として知られる概念について説明し、「聞いたこともない新しい技術を開発部門が持ってきたら、皆さんはまず何を考えますか?」と質問。「既存事業との関連性」「儲かるかどうか」「顧客を創れるかどうか」などといった学生からの答えに対して一つひとつ丁寧に応答しながら、「まず大事なのは、その時点の品質やコストで使える可能性のある用途が見つけられるかどうか」と強調しました。

さらには、「市場の立ち上がり」をもたらす要素についても問いかけます。「規制や政策の動向」「コストの低下」などの学生の答えを引き出しつつ、「事業インフラ」「革新的プレーヤー登場」など、他の要素も補足。また、当初は業法違反とされた民泊が、インバウンド需要を取り込むために法改正で実現した例を紹介、「規制も時代状況に合わせて変わる」と力説しました。

今後の授業は、チーム(計10チーム)によるグループワークも行いながら、顧客ターゲット、ビジネスモデル、マネタイズとキャッシュフロー、事業創造を後押しする組織、といったテーマで展開されます。受講生はこの講座専用のFacebookグループに参加して、連絡やグループワークなどに活用。7月の最終回(Day 6)には、各チームによる事業プラン発表が行われる予定です。

教室